夜の窓

内側から見えた景色、外から見える様子。 いろんな角度から日常を綴ります。

大阪建築「梅田吸気塔」

鉄の板を継ぎ接ぎしたようななだらかな壁面に巨大植物を思わせる独特のフォルムが特徴の、梅田のど真ん中に突如現れる謎の建造物。単体で見るとダイナミックな印象を受けるが実際は林立する高層ビルに埋没し、周囲の景観とミスマッチな異質な物体として息をひそめている。阪神百貨店の大改装を機に周囲が開け、以前に比べると大分人目に付くようになったが、それまではわざわざ足を止める人など滅多にいなかったほどである。何となく存在は知りつつも、詳しいことは分からない・・・そんな不思議な鉄柱は、実は、梅田地下街・ホワイティうめだの換気設備であるということをご存じだろうか。

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エリンギのように見える

日本を代表する近代建築家・村野藤吾氏設計の梅田吸気塔は、昭和38年竣工。ただの公共設備にこれほどの意匠を凝らすことが当時どれほど突拍子もないことだったのかは想像に難くない。全国各地に作品を遺す村野氏の作風は多岐にわたるが、この有機性を表現する壁面加工や曲線の用い方はまさしく同氏の得意分野で、無機質な中にも生命力を感じさせる佇まいこそいちばんの魅力であると私は思う。

ファンの中では有名な話であるが、手塚治虫の『ブラックジャック』の物語中で、足の不自由な少年が広島から歩きたどり着いた大阪の地として梅田吸気塔が登場している。阪急ユーザーでありSF漫画の第一人者あった彼の目に、当時これがどう映ったのか。今となっては想像するしかできないが、それもまた街歩きの醍醐味だろう。

 

◆所在地:大阪市北区曽根崎2-16

◆建築年:1963年(昭和38年)

◆同年の出来事:梅田地下街 第1期開業